2019年4月30日。平成の最後の1日。
東北一人旅5日目の朝がやってきた。
竜泊ライン
4時台に起床し、テントの中でひとり昨日コンビニで買っておいたおにぎりを食べる。
今日は確実に午後から雨の予報だ。
竜飛崎の地を踏んで南下し、外ヶ浜町から下北半島へ渡っておきたい。

5時に道の駅 小泊を出発した。
国道339号線ー竜泊ラインをゆく。

道端に滝がある。七つ滝というらしい。
最果て感がでてきた。

12%。早速素晴らしい斜度だ。
寝起きの体に容赦がない。
坂道を上っていると鼻血がでてきた。
どうやら連日の長距離走の疲れが溜まってきているらしい。

今日は風が強い。空もうっすら曇っていて、雨が近づいてきていることを予感させる。
海は近いのに山奥にいるような不思議な感覚。
相変わらず鼻血は止まらない。急な上り坂と突風で倒れそうになる。


すごいところに道を作ったものだ。
休憩がてら九十九折りを眺めていると、車が坂道を上ってきた。
中に乗っていたのはハットをかぶった品の良さそうな60代くらいのおじさん。
彼もまた、一人旅をしているのだという。
少しだけ言葉を交わして別れを告げる。

今日もまた津軽富士こと岩木山が見える。
山は高いところから見るのがきれいだというけれど、全くそのとおりだ。

昨日走ってきた津軽平野も彼方に見える。

ずっとファインダーを覗いていたい。
竜飛崎へ
延々と続く九十九折りを上りきると、小さな展望台があった。


標高約450m。
ここからあとは竜飛崎へ向けて下り坂だ。

津軽半島の形がよく見える。

先端の白いのが竜飛埼灯台だろう。
津軽海峡の向こうは北海道。
この海の底を、北海道新幹線が走っている。

登り坂はあんなに長かったのに、下り坂はあっという間に終わる。
ペダルを殆ど漕ぐこともなく、山奥の景色は後方へ飛び去った。

竜飛崎に到着する。灯台は最果ての地の証。
竜飛崎は風の岬と呼ばれている。ずっと強い風が吹いていた。
ここでも竜泊ラインの途中で出会ったハットをかぶった車のおじさんと遭遇した。

階段国道にて写真を撮ってもらった。
今朝から走っているこの国道339号線はここから階段へ姿を変え、漁港まで続くのだ。
またひとしきり話して、別れを告げる。またどこかで出会うかもしれない。

ここ竜飛崎といえば、石川さゆりの「津軽海峡冬景色」
歌詞の2番が妙に強調された石碑が建っている。
石碑には如何にもな赤いボタンがついていたので押してみると
ッテレレレ~~ ッテレレレ~~
紅白歌合戦で聞き覚えのあるイントロが大音量で流れ出した。(歌は2番だけ。竜飛崎推しが強い)
観光客が来るたびにボタンを押していくので、ここら一帯は常にこの曲の2番が流れている状態となる。
最果ての地で味わいたい静かで少し淋しい雰囲気とは...などと考えさせられる(観光地化に成功しているのであればそれはそれでよし)
午前7時40分、竜飛崎をあとにする。
このあとは一旦、今別→外ヶ浜と南下してフェリーで下北半島へ渡り、海峡ラインを走って大間へ向かって北上する予定だ。
今日もまた、どこまで行けるかは分からない。
むつ湾フェリーは10時台を逃すと次の便まで5時間ほど待たなければならない。

風速6mの向かい風。
最果ての地。辺りには何もない。
2時間半程度であと50kmを走り抜ける必要がある。
トレインが組めないソロでの向かい風は、辛いものがある。
・・・
約2時間半、ずっと向かい風は続いた。
なんとか蟹田のフェリーターミナルへたどり着く。

人が多い。受付はまだ終了していないらしいが、間に合っただろうか...

ギリギリチケットがとれた。ひと安心。
フェリーで陸奥湾を渡る約1時間は体を休めることができる。

この旅最初で最後のフェリー輪行だ。

バイバイ、津軽半島。
ぼっち作戦会議 in フェリー
いよいよ黒雲が低く垂れ込め、今にも雨粒が落ちてきそうになってきた。
フェリーの中で急いで民宿の予約をした。雨の中での野営ほど心が折れるものはないからだ。
とった民宿の場所は本州最北端・大間岬。
フェリーが到着する脇野沢村から更に80kmほど走る覚悟を決めた。

今日見たコンビニは竜泊ライン・竜飛崎を通過した後の今別町で見たファミリーマートだけだった(フェリーに遅れないよう急いでいたので立ち寄れてすらいない)。
勿論海峡ラインにもコンビニ補給はない。
大間へと向かう途中の佐井村に1つだけローカルコンビニがあるようだが、開いている保証はない。
フェリーから降りたら大間までは無補給のつもりで、商店を見つけて食料と水分を書い足しておいたほうがよさそうだ。
海峡ラインも竜泊まりラインと同様、アップダウンが激しそうなので、ハンガーノックになりかねない。

フェリーをおり、脇野沢のローカル商店でパンと水分を購入。

ローカルいろはすもGET。

いざ、海峡ライン!
地獄の海峡ライン
国道338号線-海峡ラインもまた、竜泊ラインと同様に海岸沿いの山深い道だった。

脇野沢から大間までは、直線距離こそ大したことがないように見えるが、道路が激しくワインディングしていて果てしなく遠い。

そしてついに雨雲に追いつかれる。
雨が激しく降ってきたので、路肩で雨宿りしていると、大間にいたことがあるという教師のおじさんに声を掛けられた。
「まだまだアップダウンあるし先は遠いよ」と。
濡れて寒いからといってここで立ち止まっていても、大間には辿り着けない。
悴む手でハンドルを握り、再び雨の中へ飛び込んでゆく。

海峡ラインも竜泊ラインと同様に最高到達点は標高500m程度だ。
明日から5月だというのに、路肩にはまだ雪が残っている。
朝に敵だった風が時折味方してくれるとはいえむちゃくちゃなワインディングとアップダウン。なかなか進まない。
青森の半島の西海岸線はどうしてどちらも急峻なのだろうか。

降り続く雨でレインウェアが完全に染みてしまった。体が芯から凍える。
登れど下れど雨で絶景が見えるわけもなく、ただ辛い。
仏ヶ浦
この海峡ライン唯一といっていいスポットがここ仏ヶ浦だ。
巨大な奇岩が立ち並び、日本の秘境100選にも選ばれている。
標高130mあたりに自転車を停め、海まで歩いて下りなければならない。

徒歩、というより下山に近い(帰りはこの道を登り返さなければならない)。
ビンディングシューズにクリートカバーをつけてはいるものの非常に歩きにくい。
靴に履き替えればよかったのだろうが、これ以上何も濡らしたくなかったので諦めた。


雨なのに海は深い蒼、巨大な奇岩が遠近感を狂わせる。

この地についた名前のとおり、ここが極楽浄土への入り口なのかもしれない。
本州最北端へ
自転車を置いてきたところまで歩いて登り、再び海峡ラインを走る。

雨脚は徐々に弱まってきたが、アップダウンは相変わらず容赦しない。

突如目の前に現れた巨岩は「願掛岩」というらしい。

小さな祠があった。古くから岩石信仰があるのだろう。
佐井村まで気力だけで走り抜けると、そのあとは比較的平坦な道となった。
佐井の6時のチャイムが懐かしさを感じさせる。あと少しだ。

次第に辺りが暗くなってゆく。

日が暮れる不安と、目的地へ到達できる高揚感が入り混じった感情を抱えて走る。

まだ、ぎりぎり薄明かりは残っている。


18時50分、大間崎到達。本州最北端の地踏破だ。
土産物屋の閉店に間に合ったので到達証明書とステッカーを購入し、岬の目の前にある民宿「マリンハウス民宿くどう」へ向かう。

雨の中頑張って走った自分へのご褒美として、大間のまぐろをはじめうに・いくら・サーモン・ほたてなど海の幸が並ぶ(地酒もいただいた)。
自転車はご厚意で玄関の土間に置かせていただいた。
風呂で冷えた体をあたため、濡れた衣類を洗濯し、令和の瞬間はひとり、あたたかい部屋で迎えた。
6日目へつづく。