せたログ

主に自転車の旅について,不定期投稿します

厳冬期北海道一人旅part1

f:id:seita_rid:20180403213759j:plain

2018年2月.私は日本本土最東端である納沙布岬を目指す旅に出ました.

この厳冬期北海道一人旅シリーズは,全7回+番外編1回に分けてちょっとずつ更新してゆく予定です.

旅の予定

旅のリミットは2月21日から3月1日までの9日間.うち2日間は飛行機にて往復のため,実際に走れるのは7日間.

2度目の北海道,但し以前走ったのは夏だったので本格的な雪国は初.

日本本土最西端バイクパッキングツアーの時に雪道は少し体験済みですが,きっとあの時の比じゃない.

...というわけで,毎日100kmとか150kmという計画は破綻するのが目に見えています.

美瑛の丘,上川の氷瀑,美幌峠,開陽台,野付半島,最東端納沙布岬

行きたいところ・走れる距離・獲得標高など考慮した結果,こんな走行ルート案ができました.

f:id:seita_rid:20180403220834p:plain

580.8 km Road Cycling Route on Strava

「7日間で580km,基本野宿」

この計画が達成可能なものなのか無謀なのか,実際に走ってみないことにはわかりません.

旅の命運や如何に.

1日目(北海道美瑛町へ)

初日は電車と飛行機を乗り継ぎながら美瑛町を目指します.

自転車はほぼ輪行袋の中です.

実は前夜,不安で殆ど眠れていませんでした.

というのも,厳冬期の北海道,一人,野宿.

最低気温-20℃なんて,想像もできません.

念には念を重ねて十分な防寒対策をしたつもりですが

「無事に生きて帰ってこれるだろうか」

「野宿してそのまま凍死なんてことも...?」

そんな考えが頭の中でぐるぐる巡り,気付いたら朝.

(命の保証はできない旅なので,ビビってるくらいがちょうど良いのかもしれません.)

ずっとビクビクしてばかりでもしょうがないので,自転車担いで電車を乗り継ぎ福岡空港へ.午前の便で新千歳空港へ飛びます.

f:id:seita_rid:20180407114134j:plain

再びやってきたぞ北海道!

自転車は輪行袋に入れたまま預け荷物です(重量超過料金とられてしまいました).

ディレーラーハンガーの損傷が心配なので,預ける際には変速機側を上にして「こちら上でお願いします」と言っておくと(そこそこ)安心です.天地無用の張り紙をしてくれます.

f:id:seita_rid:20180407114650j:plain

白い...

これから北国の雪道を走るんだという期待半分,不安半分.

今夜,明日,自分がどうなっているのか予想もつかない.そんな感覚も旅の醍醐味です.

f:id:seita_rid:20180407115639j:plain

新千歳空港では電車に乗る前に,自炊用のプリムスガス缶を購入.

国内線ターミナルビル二階の「snow shop」で店員さんに声をかけるとバックヤードから出してくれました.

店頭には置いていない裏メニューなので注意です.

昼飯を食べる暇すらなく,電車内でチョコレートを齧りながら新千歳空港→美瑛へ.

f:id:seita_rid:20180403225214j:plain

なんだかもうものすごい雪.

九州民なので雪を見ただけでテンションが上がります.

よくこんな深雪の中電車が走れるもんだ...

f:id:seita_rid:20180407122632j:plain

ホームにもどんどん雪が積もってゆくので,除雪が大変そうです.

九州のぼた雪とは全く雪質が違います.小麦粉や片栗粉みたい.お腹空いたな.

乗り換え待ちしていると,道民のお爺さんが話しかけてきました.

「どこから来た?その大きい袋は何じゃ!?」

「九州からきました.こいつは自転車です.」

「自転車で雪道走るつもりか?冬の北海道なめちゃいかんぞ.普通に凍死するべ.しばれて死んでしまう.雪なんかドカッと降った日にゃ『行き』倒れるよ.雪だけに.ガッハッハ!またの.」

ただでさえ寒いのに,寒いギャグを言い放って颯爽と去ってしまいました.

とはいえ,道民の警告です.気を付けなければ.「ドカ雪」九州では聞き慣れない言葉です.

f:id:seita_rid:20180407123708j:plain

日が暮れてもまだまだ電車.広すぎるよ北海道.

晴れていれば夕日が沈む前に美瑛に到着してサンピラーを拝むつもりでしたが,天気は悪いし荷物が重くて乗り換えがきついということで諦めてゆったり乗り換え.

電車が駅に停車してドアが開くと氷点下の風が吹き込みます.ドア付近に立って乗車していた私は,そのたびに凍えていました.

f:id:seita_rid:20180407125129j:plain

美瑛駅に到着したのは午後7時.駅を出ると橙色の街灯が穏やかに雪を照らす美しい街並みが広がっていました.

夕食は「戀や」の美瑛カレーうどん

f:id:seita_rid:20180408143307j:plain

「しばらくの間 夜の営業は休ませて頂きます...?」

思考が追いつかない.現実を受け入れたくない.

タクシーの運ちゃんに駅近くのお店を数店舗教えてもらいましたが,全滅.

どうやら冬は夏に比べて観光客が少ないため,夜は営業していないお店が多いらしい.

チョコレートしか食べておらず空腹は限界,そして晩飯なし...?

f:id:seita_rid:20180408144957j:plain

そしてこの-10℃という気温,予想以上に手先足先といった末端を容赦なく虐めてきます.

インナーグローブ+氷点下対応防水のアウターグローブという防寒対策を以てしても,少し自転車で走っただけで指先がジンジン痛み腫れていく感覚がする.

昼間のお爺さんに言われたとおり,このままでは「行き倒れてしばれて死んで」しまいそうです.

体験したことのない寒さに体が耐えきれなくなったので,美瑛駅へ戻り駅構内のストーブでしばらく体を暖めていました.

出会い

途方に暮れながらも,そろそろ野宿する場所を探さなければと駅を出ると,見た目4,50代のおじさんに声を掛けられました.

「これ,君の自転車?」

少し関西訛りのイントネーション.これから野宿する旨を伝えると,彼は笑いながら告げました.

「死ぬで?今夜は星が見えてるから放射冷却でかなり冷えるよ.うちにおいでや.泊めたげるわ.」

正直なところ,「泊めてあげるよ」「ごはん食べさせてあげるよ」という言葉をかけてくれる方のことはかなり警戒していました.

というのも2年前,小樽行のフェリーに乗船する前に東舞鶴駅にて,西日本の自転車旅人の間では有名な「舞鶴のホモおじさん」に声をかけられ,挙句車にまで乗ってしまうという経験があったため.

その時は新たな世界をみてしまう前に逃げることができましたが,ちょっとしたトラウマです.

保育園や小学校で習った「知らない人にはついていかない」という常識と「人の厚意を無下にしたくない」という感情のせめぎ合い.

この方はどうだろうか.

過去の経験はさておき,冷静に現状において最善だと思う選択をします.

  • 現地の方の話を聞き,雪国の常識を知る

  • 特に冷え込みが厳しい夜なので,出来れば屋根のあるところで寝る

今夜死なないために,今後死なないために,お言葉に甘え泊めていただくことにしました.

「晩御飯食べてないんか.しゃあないな,奢ったるわ.」

食事処はことごとく閉まっていたので,居酒屋へ.

連れていっていただいたのは「きむら屋」という大盛りで有名な居酒屋でした.

https://www.biei-hokkaido.jp/ja/meal/kimuraya/www.biei-hokkaido.jp

居酒屋会議

「きむら屋」は居酒屋ですが,おじさん(以降Tさんと記す)はお酒を入れず,ウーロン茶を注文しました.

Tさんはかなりの健康志向で,ここ40年ほどお酒を飲んでいないそう.それだけではなく牛肉も殆ど食べず,毎朝数キロ散歩しているとおっしゃっていました.

見た目4,50歳くらいかと思っていましたが,あと数年で70歳なのだそう.

「この町ほんまにおもろいわ.飽きないね.」と話すTさん.

数年前に関西から単身で移住してきたそうで,関西と北海道の人や街の違いを観察し考察するのが楽しいらしい.

「あそこの女の子の足見てみ.あっちも,細いやろ.でも上半身は太い.逆三角形や.関西にあんな体形の女性はおらんかった.なんでやと思う?」

「歩き方の違い,ですかね?」

「せやな.ぼくの憶測なんだけど,雪国は足元が滑るから爪先で踏みしめるように歩く.この歩き方やとずっとお尻にキュッと力を入れんといかんから,足が締まってくるんやろな.上半身が太いのは牛乳いっぱい飲むからだと思ってる.男の人も見えてないだけで,ズボンの下は足細いんやないかな.」

他にも,この町の平均寿命が短い理由など,ウーロン茶を飲み大盛りの料理を2人で食べながら議論を交わしました.

「そろそろ本題に移ろか.」

Tさんは真剣な表情になり言いました.

「その計画な,無理やと思うわ.」

長い時間をかけて準備してきた旅.私がどれだけ雪国に関して無知であったとしても,そう言われてしまうのは悔しいものがありました.

Tさんは徹底的にリスクを排除する考え方の方です.

万全とはいかなくても,リスクをある程度抑えたうえで旅を完遂させるヒントがあるのではないかと食い下がりましたが,何度も止められました.

「君な,警告しとくけど,その計画やと生きて帰れんと思うで.この旅に命を懸ける覚悟はあるか?命を懸ける価値があるか?冬の北海道は寒さと交通事故で何人も人が亡くなるんよ.美瑛・富良野に一週間おったらええやん.見る場所はいくらでもあるよ.ぼくは君が亡くなったってニュース見たくないで.」

  • 最近,近所の20歳くらいの男性が雪道でスリップしてトラックと正面衝突し亡くなったこと

  • 車やトラックは軽い雪を巻き上げて走るため,後続車からは一瞬自転車が見えなくなってしまうこと

  • そもそも冬には自転車が走らないのが当たり前なので,ドライバーが警戒していないこと

  • 歩道や路側は除雪された雪の置き場となっているため,車道が極めて狭くなっていること

  • 北海道のドライバーは夏と同様に雪道も高速で運転すること

  • 朝方の冷え込みは想像を絶するものであること

  • ドカ雪」という場所も規模も予想できない局所的な大雪が降ることがあり,生き埋めになる可能性があること

  • 根室近辺では晴れていても積もった雪が強風により巻き上げられ景色がホワイトアウトする「地吹雪」が発生しやすいこと

特に地吹雪は危険で,視界が一切なくなるため前後左右が分からなくなってしまうそうです.

「ぼくが止める理由はたくさんあるんよ.悪いこといわんから,やめとき.」

Tさんは夏場はハーレーに乗ってツーリングしているそうですが,冬場は一切車にもバイクにも乗らないそうです.

北海道のお宅訪問

冷え込みが更に厳しくなる中,Tさん宅へ.

豪雪により家はほぼ雪の中でした.

二重になっている玄関のドアとドアの間に自転車を置かせていただき,屋内へお邪魔しました.

北海道の家には大きなストーブが置いてあり,家を空けても暖房はつけっぱなしにしているらしく,室温は18℃前後に保たれていてとても暖かい.

九州の我が家の方が圧倒的に寒いです(冬場は室温6℃前後).

家に着いても北海道や旅について話しました.

f:id:seita_rid:20180412221406j:plain

Tさんはこの数年毎日欠かさず,美瑛町の気温と天気を記録しているとおっしゃっていました.

「北海道には夏と冬しかないからな,ここ見てみ.マイナス日の翌日に20℃まであがってる.おもろいなあ.」

よく観察して考察すれば,特別なことをせずとも日常の至る所に「面白いもの」が転がっている.彼はそんなことを幾つも教えてくれました.

「どうしても旅続けたいっていうなら僕にはもう止められんけども,まあ一晩寝てじっくり考えたらええよ.」

布団を出してもらい,まさかの温かな夜.ご飯に情報に寝床まで,頂いてばかりです.ありがたい.

初日から予想もしなかった出会いに恵まれました.

明日,自分がどうなっているのか予想もつかない.そんな感覚こそ旅の醍醐味.

改めてそう思いながら眠りにつきました.

つづく.