せたログ

主に自転車の旅について,不定期投稿します

年末年始紀伊半島一人旅part3

初日の夜、温泉のオーナーであるOさんに拾われた。

Oさんは笑顔で

「お前みたいなのは嫌いじゃ」

と何度も云いながら、たくさん身の上話をしてくれた。

私は餅とカニ缶を入れたラーメンとビールまでいただいてしまい、温かい布団で眠ったのだった。

f:id:seita_rid:20190123003902j:plain

山深くへ

12月31日、大晦日の朝。午前6時に起床。

Oさん宅にて納豆パンと珈琲をいただき出発した。

本当にお世話になりました。

f:id:seita_rid:20190131225007j:plain

山深い場所なのでところどころに路面凍結や積雪があった。

道の駅大塔併設の温泉で特別に朝風呂を浴びさせていただき、体を温めて山間部を快走する。

f:id:seita_rid:20190131224751j:plain

林道に入ると、一切車を見なくなった。

目指すは標高1300mの釈迦ヶ岳尾登山口。

斜度が急にきつくなり、ペースが上がらない。

f:id:seita_rid:20190131224756j:plain

人気のない静かな山道を登りながら

「年が暮れてゆくなあ」と感じていた。

人里離れた場所でひっそりと年を越すのは初めてだ。

このあたりから一切電波が入らなくなった。

f:id:seita_rid:20190131224802j:plain

熊出没注意の看板のアピールが激しい。

無駄にビビらせてくる。

熊のいない九州に住んでいる身としては

こういうのは非常に刺激的で良い(良くない)

...

f:id:seita_rid:20190131224807j:plain

!!!

通行止め...3日前からじゃないか...

絶妙なタイミングで林道の行く先が冬期通行止めとなり、バリケードが施してあった。

行くか戻るか。

道路標識はないし県警の文字が見当たらないので、法律の縛りがあるわけではなさそう。

「この先で起きた事故に関しては一切の責任を負いません」

と書いてあるということは

それなりに危険な箇所があるから通行止めにしているのだろう。

f:id:seita_rid:20190131225012j:plain

冒険のはじまり

勿論戻るなどという選択肢はなく、バリケードの脇からそっと回り込んで先を目指すことにした。

ここからはわざわざ危険を冒しに行くようなもの。

文字通り冒険、全て自己責任となる。

細心の注意を払って進まなければならないし、トラブルに見舞われたら即座に撤退の判断をしなければならない。

f:id:seita_rid:20190131225016j:plain

次第に雪が深くなり、路面の凍結もひどくなってゆく。

熊は冬眠中のはずだが、念のためラジオを流しながらペダルを回した。

誰もいない。背中のラジオと風の音だけが鼓膜を揺らす午後。

f:id:seita_rid:20190131224812j:plain

朝からお店というお店を見ていない。

昨日大量に食料を買い込んでおいて正解だった。

凍りかけのおにぎりを食べつつ、さらに進んだ。

f:id:seita_rid:20190131225026j:plain

急な斜面に氷が張っている箇所はタチが悪い。

傾いたスケートリンクのようなもので、そもそも自転車には乗っていられないし、気を抜けば転倒しそのまま滑り落ちるだろう。

(重いけれどスパイクタイヤも持ってくればよかった?)

f:id:seita_rid:20190131225021j:plain

だから氷結した路面で立ち往生したら、とにかく踏ん張るしかなかった。

そして転ばないようバランスを取りながら、摺り足でちょっとずつ前へ進む。

楽しい。ドキドキする。

緊張感は心地よいけれど、ペースが全く上がらない。

崖側のガードレールもまばらな山道がこんなに凍結してくれたのでは、通行止めにするのも頷ける。

これ以上先へ自転車で行くのは現実的ではないと判断したのは、標高800mあたりだった。

さらば相棒

自転車を押し歩かなければ進めないような急坂の凍結路が増えてきたので、登山口まで自転車で行く当初のプランは断念した。

f:id:seita_rid:20190131224817j:plain

テントやシュラフ、食料を背負って歩く。

ここからは歩いたほうがきっと速いし、安全だ。

f:id:seita_rid:20190131225035j:plain

登山のために持ってきていたアイゼンを装着した。

まさかここで使うことになるとは思っていなかったが、凍結した路面を噛んでくれるので歩きやすくなるはず。

f:id:seita_rid:20190131225050j:plain

待っててね。

ここまで連れてきてくれた相棒に別れを告げて更に上へ。

f:id:seita_rid:20190131225054j:plain

f:id:seita_rid:20190131225059j:plain

非常に歩きやすくなった。

釈迦ヶ岳登山口へ

道中、1名だけ山から徒歩で下ってくる方がいた。

風が強かったので登頂はしていないとのことだったが

ここらの山々をトレッキングしていたらしい。

「まさか人に出会うとは思ってなかった」

と言われた。

こっちの台詞だ。

f:id:seita_rid:20190131224844j:plain

そんなこんなしている間に登山口が近づいてきた。

日が暮れるまでにぎりぎり辿り着けるだろうか。

f:id:seita_rid:20190131224855j:plain

重く垂れこめた雲はどことなく湿っぽさを醸し出しながら、紀伊の山々を覆っていた。

時折雲間から覗く太陽が辺りを黄色く染める度に、少しだけ安心した気持になっていた。

2つの足と2つのストックで歩き続ける。

f:id:seita_rid:20190131224913j:plain

あれが釈迦ヶ岳だろうか。

標高1300mの登山口に辿り着いたのは、日が暮れる15分程前だった。

f:id:seita_rid:20190131224918j:plain

風が非常に強く、明日の登山が心配になる。

雲の流れは速い。けれど雲量は少しずつ減っているようにも思える。

登れるかどうかは年が明けてみなければわからない。

f:id:seita_rid:20190131224923j:plain

夕陽に照らされたシュカブラが美しい。

f:id:seita_rid:20190131224933j:plain

f:id:seita_rid:20190131224938j:plain

この年最後の夕陽が沈んでゆく。

f:id:seita_rid:20190131224928j:plain

この階段を上がった先はすぐに登山道。

明日夜明け前の真っ暗な中を一人で歩くことになるだろう。

f:id:seita_rid:20190131224944j:plain

風が吹き荒れ、とても一人でテントを設営できる状態ではないので、冬季閉鎖中のトイレ小屋の入口スペースをお借りすることにした。

気温は-5℃だが、直接風を受けるよりは幾分か暖かい。

f:id:seita_rid:20190131224956j:plain

年越しそばならぬ年越しカレー麺を食べていよいよ年越し。

誰もいない山奥での孤独な年越し。

本当に一人になれた夜はこれが初めてかもしれない。

冬の北海道でも基本的にスマホは繋がっていたし、寝床から少なくとも5km圏内には人が住んでいた。

対して今は20-30kmほど麓へ下らなければ家はないし、ずっとスマホは圏外のまま。

安全と引き換えに、何にも縛られない自由の中に横たわる権利を手にした。

誰からも見えないところに自分がいるのだと思うと気持ちが軽かった。

太い動脈あたりに懐炉を貼り付けシュラフに潜り込むと、走り疲れ歩き疲れのせいかあっという間に瞼が重くなった。

つづく。